「ひとつ例をあげよう。’88年のモナコGPだ。予選を通じて彼は調子が悪かったが、最後のアタックで僕からポールポジションを奪い取った。セッション後の会見で彼はこう説明をはじめた。『マシンは良くなかった。だから走行中にマシンを抜け出して、周回するところを上空から眺めた』と。
僕は彼が冗談を言っているのだとばかり思った。というのも彼はときどき、至極まじめな顔でジョークを言うことがあるからだ。だが、冗談などではなかった。僕は彼の顔をしげしげと眺め、それから記者たちを見渡した。何をどう考えればいいのか、どんな反応をすればいいのか全然わからなかったからだ。
こいつ大丈夫かと、ちょっと心配になるだろう。プレスにこっぴどくやり込められるぞとも思った。ところが翌日の新聞は、彼のコメントをどこもほとんど取り上げなかった。
どれほど神がかっても、彼は神聖不可侵な存在だった。そして同じバイアスで、人々は僕を彼よりも少し劣った存在とみなすようになっていた。そんな状況に、どうやって立ち向かったらいいんだ?」